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〜 街への愛着を取り戻そう!坂道散策のススメ 〜

聞き手 山野さんが坂道に興味を持たれるようになったきっかけは?
山野さん 私はもともと東京生まれじゃないんです。東京に出てきたのは、高校2年の時なんですが、ちょうど10年ぐらい前に世田谷の方に引っ越したときに、「もうちょっと自分の住んでいる街を知りたい」と思い始めたんです。それが最初のきっかけですね。
聞き手 なぜ、坂道なんですか?
山野さん 坂道って、標柱がありますよね。いろいろな標柱を発見するうちに、東京にはこんなにたくさん坂道があるんだと、気づきました。それで坂道の本を探したら、いくつかあって、調べていくうちに興味が湧いてきました。
それに、僕はもともと歴史が好きだったんです。特に江戸時代に興味があって、とりあえず東京の坂道を全部制覇してみようと思い立ったのです。
聞き手 どれくらい東京の坂道を歩かれたのですか?
山野さん 土日をかけて、長いときで1日5時間ぐらいですね。最初は自宅の近くから始めたんですけど、23区内全部歩くのに2年半ぐらいかかりました。今は2巡目3巡目をやっています。
聞き手 坂道巡りを続けるコツは?
山野さん 坂道だけだと単なる道路なんです。それほど面白いものではない。坂道の周りには、お寺とか神社とか、歴史的な建物とかがあるんですけど、そういうものを含めた「全体の景観」として捉えると、坂道が際立つんです。
聞き手 坂道周辺の史跡を一緒に楽しむということですね?
山野さん そうです。意外なことに、東京の街って江戸時代からあまり変わってないんです。麻布近辺や市ヶ谷近辺なんかは、江戸時代の古地図を持っても歩けますよ。
これはややロマンチズムになりますが、坂を歩くと「この坂を江戸時代の武士や町人が、どういうふうに歩いていたのかなぁ」と想像してしまうんです。そう考えると、坂を巡ることが、とても興味深く、すごいことだと感じるんです。
聞き手 坂道から歴史をたどるんですね?
山野さん そう。例えば、品川から高輪に続く道は、家康が江戸に入るときに通った道なんです。400年以上前に家康が歩いていたその道が、現在もそこにあるんです。歴史というのは、書物の中で実感することはできません。そこに実際にある道でこそ、実感できるものではないでしょうか。
聞き手 山野さんが考える良い坂道とは、どんな坂道ですか?
山野さん 実は、私とタモリさんで日本坂道学会というのを作ったんです。会員は二人だけなんですけど。そこで、「いい坂」ってどんな坂かをタモリさんと話し合ったんです。それが次の4つです。
@ 勾配が急であること
A 坂が湾曲していること
B 江戸の情緒があること
C 坂の名前に面白い由来があること
聞き手 面白い坂道の名前というのは?
山野さん お墓があると幽霊坂とか、樹木が生い茂っていると暗闇坂とか。三べ坂っていうのが永田町にありますが、これは名前の下に「べ」がつく、当時の大名の渡辺・安部・岡部家が隣合せていたことにちなんでいるんです。あと紀尾井坂というのも有名ですが、これは紀州徳川家、尾張徳川家、井伊家の頭文字を取ってるんですね。そこから明治になって紀尾井町という町名も付けられたんです。
聞き手 面白いですね!
山野さん 武家屋敷とか神社のあった場所には、もともと町名なんか無かったんですよ。だから町人は、「あの団子坂を登って、左だよ」というふうに、坂道をランドマークにして、目的地を説明していたんです。だから坂道の名前は必要だったんです。
しかも坂道の名前は、行政が付けたのではなく、町人が勝手につけたものなんです。だから団子坂で言えば、汐見坂、七面坂、千駄木坂と、いろいろな別名を持っているんですよ。
聞き手 タモリさんが書かれた「タモリのTOKYO坂道美学入門」に、
協力という形で、携われてますよね?
山野さん この本は2004年10月に出たんですけど、本のメインの写真は、全部タモリさんが実際に撮られたものなんです。タモリさんも忙しいのに、熱心にやってくれました。これは講談社の雑誌「東京1週間」で連載していたのをまとめたものです。
聞き手 タモリさんとはどんなきっかけで?
山野さん 銀座でよく行くお店があるんですけど、そこで私が坂道の話をしていたら、隣のテーブルにいたタモリさんが声をかけてきたんです。そのあと意気投合して、雑誌での連載企画となったんです。
聞き手 山野さんは、日本坂道学会の会長でもありますよね?
山野さん 日本坂道学会はタモリさんが命名したんですけど、彼が副会長で私が会長ということになっています。冗談でやっているので、この学会は二人しかいません。僕のことをいつも彼は「会長!」と呼ぶんですよ(笑)。
聞き手 山野さんが考えるウォーキングの楽しみ方とは?
山野さん ウォーキングは今すごく盛んですよね。今後もっと広がっていくと思います。でも、中には無目的で歩いている人もいますよね。これは長続きはしないと思います。
なにかしら目的を持って歩いた方が持続しますよ。美しい橋、樹齢何百年とかいう古木、歴史ある神社仏閣、建造物、風景、緑道とか。なんでもいいから目的を持った方が良いですね。
目的を決めたら、次は事前や事後に情報を調べることが大切です。雑誌とかインターネットを使って。
3点目は、最初から距離を長く歩かないことですね。自分の家の近くを短時間歩いて、少しずつ伸ばした方が良い。
4点目は道具ですが、手袋や靴ですね。特に靴は、自分の足にあった通気性の良い靴がいいです。夏は帽子が欠かせません。
それと最後に、何か記録を残しておくのもいいですね。写真とかスケッチとかメモとか。自分なりの記録集を作ると楽しいです。
聞き手 山野さんも写真を撮られているのですか?
山野さん 今8,000枚ぐらいあります。特に古い写真は貴重ですよ。風景の写真って意外と残ってないんですよ。平凡なので、残していないことが多い。今、一所懸命撮っておけば、孫の時代に役に立つかもしれません(笑)。
聞き手 山野さんオススメのウォーキングスポットがあれば教えて下さい。
山野さん 港区、文京区、新宿区はいいですよ。高輪、三田、南麻布から始めて、目白台、市ヶ谷辺りを歩けば、きっと次も行きたいという気持ちになるはずです。
面白いのが、それぞれの区で趣が違うんですね。昔の人はそんなに生活空間が広かったわけではないから、それぞれの地域の香りが色濃く残っているんだと思います。不思議ですよね。
聞き手 オススメの時期はいつですか?
山野さん これは、いつの季節もない。“春夏秋冬朝昼晩”と私は言っています。春先は新芽が芽生え、夏は緑が生い茂り、秋は紅葉、冬は木枯らし吹いて空が明るくなる。そして朝昼晩で表情が違ってくるでしょ?だから、4×3で12通りの坂の風情を体感できるんです。要するに、いつ行ってもいいですよということ。
でも、初心者の方は、春先がいいかもしれませんね。
聞き手 身近な道路について、最近何かお気づきの点はございますか?
山野さん まず、東京は美しい道がたくさんあるということです。表参道や外苑の銀杏並木、国立の大学通り、田園調布の住宅街、府中の大国魂神社の参道など。
国土交通省の関東地方整備局で、「関東の富士見100景」というのをやっているようですね。西日暮里の富士見坂で看板を見つけて、いいなぁと思いました。普段何気なく歩いているけど、そういう看板を見ると「あぁ、この坂はこんないい坂なんだ。こんな歴史があったんだ」と感心する人がいるはずです。そういう感覚が、郷土の誇りになったりするのだと思います。
聞き手 あまりに身近な存在のため、道に対してなかなか関心を持てない人がいらっしゃいます。そんな人に道の魅力を伝えるとしたら?
山野さん 道だけを言ってもだめだと思います。道を中心として、全体でとらえないと、愛着がもてないですよ。
そのためには、古木を守るとか、建物の高さ制限をするとか、看板の大きさや色を制限するとか。自分の街がきれいになれば、ほかの街も気になるはずです。
あと、自分の周りの道のお国自慢なんか募集して、全国のNo1を決めるような、そういう写真コンテストなんかがあるといいですね。できれば、我が町の坂道自慢なんかをやってほしい。
聞き手 このホームページでも少しやっているんです。
山野さん それはいいですね。それと古い写真。子どもの頃の街の写真と10年後の写真とを比較する企画なんてのは面白いですよ。
聞き手 同じアングルの写真で街の風景がどう変わったのか、みたいな?
山野さん そう、それが一番いい。もっとおおげさにすれば、全国の坂道のサミット。僕は東京だけれど、全国にも坂道好きはいるはず。全国の坂道好きが資料を持ち寄ってやればすごい大事業になる。
聞き手 地方都市の中で、特色が出ていて良いとお感じになられている道はありますか?
山野さん いまのところ東京を歩くので精一杯ですね。でも次は地方も歩いてみたい。今は海外旅行には、まったく興味がありません。まずは日本全国に行きたいですね。
聞き手 歩くという視点から、今後の道路整備に望むことを教えてください。
山野さん いろいろありますが、
@ 歩道を広くしてほしい
A 緑を増やしてほしい
B 街ごとの自慢の古木を大事にしてほしい
C 公共トイレを増やしてほしい
D 小休止が出来るベンチを増やしてほしい
というところです。
あと、日本橋の上の高速道路をなんとかしてほしいですね。日本の道路の起点なんだから、高速道路は地下に埋めて、景観を取り戻してほしい。とにかく、今までやってきた高度成長はさておき、住んでいる街をきれいに保っていこうという気持ちが大事だと思います。全体的に街に潤いが足りないように感じます。
聞き手 歩道の段差とかも気になりますか?
山野さん そうですね。歩道って、排水の関係で少し傾いてますよね。年寄りには歩きにくいんです。あと歩道の真ん中に電柱があるのも困る。今までは車中心の社会だったけれど、人が中心のまちづくりを進めるべきです。そのために金を使う分には誰も文句いわないと思いますよ。
聞き手 何か言い残したことがあれば、どうぞ。
山野さん 是非行政にやってほしいのが、地名を元に戻してほしいということ。今の地名は、上中下、東西南北に変わっているのが多いでしょ?西○○とか、上○○とか。これは、その街が持っている歴史や財産を簡単に捨ててしまっていることに等しいのではないでしょうか。
昔の地名に戻すのは、いろいろとお金がかかるのかもしれないが、長い歴史的観点でみれば、郷土愛を育てるという意味で、絶対プラスだと思うんです。
霞町とか材木町とか、東京にはいい名前がたくさんあるんです。町名から「俺たちの街は、昔はこんな職人さんが住んでいたんだ」などと実感できるんです。せっかくの財産は活用したほうがいいと思います。
昔の名前の復活。これは是非やってほしいです。
聞き手 本日はどうもありがとうございました。是非、「坂道サミット」を実現させたいですね!
